現在,世界的に新薬開発が停滞している

現在,世界的に新薬開発が停滞していると言われており,特に日本発の新薬は欧米に比して少なく,日本の創薬研究の現状は満足のいくものとはなっていない.その原因として色々なことが考えられるが,要因の一つは,疾患の原因の理解が進んでいない,具体的には,創薬のターゲットとなる疾患バイオマーカーが見つかっていないことであると思われる.疾患バイオマーカーの発見には,オミックス解析が不可欠である.近年,次世代シークエンサーの登場で,疾患関連遺伝子変異は数多く見つかってきており,病因の理解が深まっているように見えるが,それらの研究が創薬ターゲットとなるタンパク質の発見につながっていないことが問題である.一方,近年タンパク質を網羅的に解析するプロテオミクス技術の進歩には目覚しいものがある.その大きなブレークスルーの一つは,定量プロテオミクスおよび翻訳後修飾プロテオミクス技術の開発である.定量プロテオミクス技術に関しては,安定同位体標識法を用いた検体間のタンパク質の比較定量のみならず,selected/multiple reaction monitoring(SRM/MRM)法による検体中のタンパク質の絶対定量が可能になった.翻訳後修飾プロテオミクス技術については,前処理法や解析ツールの開発により,特にリン酸化プロテオミクスが格段に進歩した.これらのプロテオミクス技術の進歩は,様々な疾患の病態の解明,新しいバイオマーカーや創薬ターゲットの発見,種々の薬剤の作用機序の解明とコンパニオン診断薬の創出など医療の幅広い分野への応用を可能とする.本稿では,質量分析計を用いたプロテオミクス技術がどのように創薬に貢献できるかについて,これまでの我々の成果を織り交ぜながら紹介する。引用文献 (8) ドクターアンディーズクリニック

  • 1) Hopkins AL, et al. Nat Rev Drug Discov. 2002;1:727-730.
  • 2) Rask-Andersen M, et al. Annu Rev Pharmacol Toxicol. 2014;54:9-26.
  • 3) Gillette MA, et al. Nat Methods. 2013;10:28-34.
  • 4) Humphrey SJ, et al. Nat Biotechnol. 2015;33:990-995.
  • 5) Abe Y, et al. J Proteome Res. In press.