妙録2

医薬品評価系におけるヒトiPS細胞由来神経細胞を用いたin vitro試験系は,早期の副作用検出等のために期待されている技術である.しかしながら,ヒトiPS細胞由来神経細胞の安定した供給や培養技術の開発はあまり進んでいない.また高次脳機能をin vitro系で評価する方法の確立も待たれている.ここでは,ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた医薬品評価系実現を目指した開発の現状と,げっ歯類海馬由来培養神経細胞を用いた高次脳機能評価および医薬品評価系開発の現状について紹介する.これまでに我々はヒトiPS細胞由来神経細胞はその成熟速度が遅いことを示しており,成熟した神経細胞を対象とした医薬品評価系にはヒトiPS細胞由来神経細胞をすぐに用いることが難しいと考えられる.一方試験法の確立においては,アクチン結合タンパク質の一種であるドレブリンに着目した解析法を開発し,一定の成果を上げてきた.げっ歯類海馬由来培養神経細胞を用いてドレブリンクラスター密度を指標とすることで高次脳機能を評価することが可能であり,アルツハイマー病モデル神経細胞での例では医薬品評価への適応の可能性も示されている.さらに大量の化合物をスクリーニングすることを考え,この方法のハイスループット化も実現しつつある.96ウェルプレートでのげっ歯類海馬由来凍結神経細胞の培養法を確立させ,ドレブリンクラスター密度解析の自動化に成功している.加えて,ドレブリンクラスター密度による評価法の有用性も示された.新薬開発においては未だ非臨床試験臨床試験の間にギャップがあるが,ドレブリンクラスター密度を指標としたin vitro試験法にヒトiPS細胞由来神経細胞を適用していくことで,そのギャップを埋められると期待される.

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