過熱するエクソソーム研究

OPINION

広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 細胞分子生物学研究室

田原 栄俊

存在してバイオマーカーになる可能性が示されたことである。急遽、2011年にパリのキューリー大学でInternational Workshop on Exosomes(IWE)が、Clotilde Théry(テリー博士)and Graca Raposo(ラポソ博士)がオーガナイザーとしてパリで開催されたが、会場にあふれるほどの各国の研究者がいたことは驚きであった。日本からは、筆者の他、落谷孝広氏、黒田雅彦氏、水谷隆之氏、小坂展慶氏、秋山英雄氏などが参加した。その後、Jan Lötvall 博士を会長とするISEV( International Society of Extracelular Vesiciles) が組織され、第1回のISEV annual meeting が、スウェーデンヨーテボリで開催されたが、エクソソームという1 つのキーワードでさまざまな分野の研究者が800名近く集まり、活発に議論していた。日本でもエクソソームに関する特集や日本RNAi 研究会でのISEV シンポジウム開催などでエクソソームの重要性が浸透してきて、学会などでも議論されるようになってきた。ただ、米国はNIH がエクソソームの重要性に目をつけて、素早くそれに特化したグラントを作った点は、エクソソーム研究を加速させる意味で日本政府と大きく異なっている。今後、日本においても細胞外小胞というキーワードで研究プロジェクトが立ち上がることが、エクソソーム研究での日本の立ち後れをとらないためにも極めて重要である。

 エクソソームを含めた細胞外小胞は、疾患のバイオマーカーとして有用なだけでなく、そもそも我々の身体の中で生物学的に極めて重要な機能を有している。卵子精子が受精するとき、赤ちゃんが母乳を摂取するなど細胞間、そして個体間のコミュニケーションツールとして重要な役割をしていることは間違いない。しかし、細胞外小胞はウイルスのように小さな粒子を解析する必要があり、さまざまな課題がある。例えば、細胞外小胞の精製方法の問題、それらを解析する上での技術的な課題などまだまだ確立できていない部分が多い。ISEV においても、その中の重要性を認識しており、技術的な議論に特化したワークショップを開催して、そこでの議論をISEV の学会誌であるJEV で発表していく方針を示している。すでに細胞外小胞からのRNA の精製方法については、公開されている。今後、これに続く情報が公開されていく予定である。ISEV の活動には、アジア地域においてはISEV のアジア領域の活動部隊として、ISEV asia が形成されている。現在は、ISEV の役員である Andrew Hill( オーストラリア)、 Yong Song Gho(韓国)および筆者を中心に運営されており、アジア地域の細胞外小胞研究の活性化を進めている。日本においては、筆者が会長を務める日本RNAi 研究会が中心となって、日本でのISEV シンポジウムを開催するなど活動を続けており、日本における本領域の研究。